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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)1622号 判決 1964年5月27日

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社三愛

右代表者代表取締役

小山武夫

右訴訟代理人弁護士

比志島龍蔵

杉本昌純

被控訴人(附帯控訴人)

株式会社三愛

右代表者代表取締役

市村清

右訴訟代理人弁護士

田村福司

主文

本件控訴並びに附帯控訴をいずれも棄却する。

附帯控訴人の当審における新たな請求を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人という。」)訴訟代理人は「原判決主文一ないし三及び五を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに附帯控訴棄却及び附帯控訴に係る新たな請求を棄却する旨の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)訴訟代理人は控訴棄却の判決並びに附帯控訴として「控訴人が二ケ月以内に原判決主文第二項掲記の手続をしないときは、控訴人は同項(一)及び(二)の各商号を、(1)当裁判所指定又は被控訴人指定の商号に、(2)右(1)の指定が不当とされる場合は「東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第一六二二号不正競争防止等請求控訴事件判決に基づき商号の変更を命ぜられた株式会社」に、変更登記手続をせよ(以上は当審における新たな請求である。)。控訴人は朝日、毎日、読売、日本経済の各新聞紙の東京本社版に表題、会社名及び代表者名を各二倍活字、その他は一倍活字をもつて原判決末尾別紙記載の謝罪広告を各二回にわたつて掲載せよ。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、次のとおり付加するほかは原判決事実摘示と同一であるのでここに右記載を引用する。

被控訴人訴訟代理人は「被控訴人は、不正競争防止法第一条並びに商法第二〇条及び同法第二一条に基づく請求を並列的に申立て控訴会社の商号の変更登記手続を求めるものである。而して、商号の変更登記手続を命ぜられた控訴人において右手続を履行しない場合にはいかんともなしがたく、かくては不正競争防止の目的が達せられない。よつて控訴人に対し附帯控訴趣旨どおりの商号変更登記手続を求めるものである」と附加し(立証省略)た。

控訴人訴訟代理人は、「商法第二〇条第一項及び同第二一条の規定はもとより不正競争防止法第一条の規定も、不正の目的又は不正競争の目的あることが適用の要件であつて、当該商号又は商標、標章を善意に使用する者に対しては適用されないものと解すべきところ、控訴人の開店当時は被控訴人は銀度四丁目の角店として一部銀座人種に知られていたに過ぎずその商号又は商標、標章が当時すでに東京都内のみならず本那の地域内において広く認識されていたということは絶対になく、まして控訴人は被控訴会社がこれを使用している事実は知らなかつた」と附加し(立証省略)た。

理由

当裁判所は控訴人の本件控訴、被控訴人の附帯控訴をいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり附加、訂正するほかは原判決の理由に説示するところと同一であるから、ここに右理由中当該記載部分(原判決理由第一の(原告の商号、商標等が本邦の地域内で広く認識されていたか)の項の一、(被告が、原告の商品又は営業上の施設もしくは活動と混同を生ぜしめているか)の項一、二、四、五、(被告の行為により、原告の営業上の利益が害されるおそれがあるか。)の項、(不正競争防止法第二条第一項第四号に基く被告の主張)の項及び第三)を引用する。

附加、訂正する点は次のとおりである。

一  原判決理由一枚目表九行目から二枚目表六行目までを「二、(証拠―省略)を総合すれば、被控訴人はおそくとも昭和二七年頃までには営業目的を主として婦人向の衣類、服飾品及び雑貨類の販売としたこと(この事実は、日時の点を除き当事者間に争いがない。)、その頃から被控訴人は「おしやれの店三愛」という称呼で殊に若い婦人層を対象に独創的な意匠による商品の販売を企画し、その顧客層は東京都を中心にその周辺に及び、次第に他の同業者間でも驚くべき売上率を示すようになつたこと、被控訴人は昭和三三年一〇月一日西銀座デパート開店と同時にその内にその売場面積の二分の一にあたる九百坪の店舗を設けて西銀座店としたことを認定することができ、右認定を左右するに足る証拠はない。三、以上認定の事実に(証拠―省略)並びに本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、被控訴会社の「株式会社三愛」の商号、その略称又は通称である「三愛」及びそのローマ字で表わした「SANAI」、「SANAi三愛」の商標が被控訴会社の商品又は営業であることを示すものとして少くとも控訴会社代表者小山武夫が個人として「三愛」の商号の使用を開始したと主張する昭和三四年九月当時には、すでに足立区を含めた東京都の全地域並びにその周辺において需要者に広く認識されていたことが認められ、(中略)他に右認定をくつがえすに足る証拠はない」と訂正する。

二  原判決理由三枚目裏四行目に「被告代表者尋問の結果」とあるを「原審及び当審における控訴会社代表者尋問の結果」と訂正し、同丁裏八行目から九行目を、「(六)控訴会社の顧客層は足立区を中心にその周辺に及ぶが、控訴会社はチラシ広告に「三愛」と記載し、これを毎月三回、一回十七万枚位を新聞折込の方法によつて地元住民を対象として一般顧客に配布していること」と訂正する。

三  原判決理由四枚目裏四行目「被告が」から同五行目「の表示を」までを「控訴人は、その繊維製品の販売について本邦の前掲地域内において広く認識せられる被控訴会社の商号「株式会社三愛」及び表示「三愛」、「SANAI」を」と、同六行目「原告」とあるを「控訴人」と訂正し、同第五項に、「(証拠―省略)によれば控訴人は被控訴人より警告を受けた後チラシ広告に数回、控訴会社は被控訴会社とは無関係である旨の記載をしたことのある事実は認められるが、広告中に占める右記載の活字の大きさ並びに広告の回数などから考えて、右事実をもつて控訴人、被控訴人間の商品又は営業上の施設もしくは活動についての混同を防ぐものとは認めがたい」と附加する。

四  原判決理由四枚目裏九行目並びに同五枚目裏七行目に各「被告代表者本人尋問」とあるをいずれも「当審における証人(省略)の証言並びに原審及び当審における控訴会社代表者尋問」と訂正する。

五  原判決理由六枚目表五行目の次に「なお控訴人は、不正競争防止法第一条の規定は、不正の目的又は不正競争の目的あることが適用の要件であつて、善意で当該商号、商標、表示を使用する行為に対しては適用されない旨主張するけれども、同法第一条による行為差止には、商法第二十条、第二十一条の場合と異なり、当該行為をなすにつき不正競争の目的又は不正の目的あることを必要としないものと解するのが相当である。そのことは不正な競争を迅速に防止しようとする不正競争防止法の趣旨からも推知できるのみならず、規定の形式から見ても、同法第一条には商法第二十条、第二十一条のような不正競争の目的又は不正の目的を要件として規定しない一方不正競争防止法第二条において特定の場合に限り善意者に善意を立証して第一条の適用を免れる途を開きその他の場合は善意すらも免責事由としていない点から明らかである。従つて右のような目的あることが必要であるとの控訴人の主張は採用できない。又控訴人主張の善意の点について見るに、本件で問題となつた控訴人使用の表示が最初に使用されはじめた時期であることを控訴人の自認する昭和三十四年九月当時は既に被控訴人の商号、商標、商号の略称等で被控訴人の主張する標章が東京都の全地域並びにその周辺において広く認識されるに至つた後であることは前示のとおりであるから、本件に不正競争防止法第二条第一項第四号を適用する余地のないことは明らかである。なお控訴人自身の名称の使用についても控訴人が「三愛」の語を使用するに至つた動機が毛利元就の故事に由来することは原審及び当審における控訴会社代表者尋問の結果により認めることができるが、それにもかかわらず、控訴会社代表者が昭和二十二年頃すでに銀座に在る「三愛」の名称を付した被控訴人の店舗を知つていたことは当審における控訴会社代表者尋問の結果により明らかであり、控訴人が「三愛」の名称を店舗に使用して開店した当時控訴人の営業する地域においても右名称使用の点から控訴人の店舗は銀座の被控訴人店舗となんらかの関係があるかのように一般に誤解される虞のあるものであつたことは、当審証人(省略)の証言の一部によりこれを知るに難くないので、右三愛の名称発案の由来は如何にあれ、その使用が控訴人により善意を以てなされたものとは断定することができない。従つて控訴人は同法第二条第一項第四号又は第三号により同法第一条の適用を免かれることはできない」と附加する。

六  原判決理由七枚目表一二行目から同裏三行目までの括弧内を次のとおり改める。

「(控訴人の商品ないし営業が被控訴人のそれと誤認、混同されたとしても、それだけでは被控訴人の営業上の信用が常に当然に侵害されるものとは断言できない。そのことは不正競争防止法第一条ノ二が信用回復に必要な処置を命ずるために、同法第一条第一号又は第二号の誤認混同を生ぜしめる行為があつたことのほかに、これに加えて、その行為により他人の営業上の信用を害したことを別に要件として掲げている点から見ても明らかである。)」

七  以上説示するところ(附加訂正の上引用した原判決記載の理由を含む)によれば、被控訴人は控訴人に対して不正競争防止法第一条の規定に基づき、控訴人が「株式会社三愛」の商号を使用することを禁止し、且つ原判決主文第三項掲記のとおり控訴人の行為差止を求めることができるが、しかし、同法第一条の二、第二項に基づく謝罪広告をなすことを求めることはできない。

なお、被控訴人は控訴人に対しその商号の変更登記手続を請求する。控訴人が「株式会社三愛」なる商号を使用することができないことは、既に説示のとおりであり、控訴人は会社であるから、会社として存続しながら商号だけを廃止するということはできない。会社が過去の商号を途中で変更し、その変更した商号が使用を禁止された場合のように、その商号変更登記だけを抹消すれば当然旧商号が復活することにより禁止の目的が達せられるようなときは格別、本件のように会社設立登記により登記された会社の当初の名称そのものが使用を禁止されたような場合には、会社としてはその禁止された商号を他の商号に変更する手続を執るのほかなく、不正競争防止法第一条に基く被控訴人の控訴人に対する商号使用差止の請求権中には、その商号を他の商号に変更する登記手続を請求する権利をも包含するものと解することができるから、この点に関する被控訴人の第一次の変更登記手続の請求は理由がある。しかしながら控訴人が右変更登記手続をしない場合に備えた当審における新たな第二次の変更登記手続の請求について考えるに、変更後の商号となるべき他の商号は、その選択の範囲が無限であり、その中のいずれの一をとるべきかは、別段の規定がない限り本来その会社が自らこれを決すべきであつて、商法第二十条もしくは第二十一条又は不正競争防止法第一条以下の規定も、一定の商号の使用差止の請求を許してはいるが、それ以上に請求権者又は裁判所に対し、相手方のため新たな商号を創設選択する権利権限を付与したものではない。従つて被控訴人も裁判所も控訴人に対しその採用すべき新たな商号を定めてこれに対応する商号の変更の登記手続を命ずることはできない。控訴会社が任意にその商号を他の商号に変更する登記の手続をしない場合にこれを直接に強制する途がないということは、以上の結論を左右するに足るものではなく、そのような場合には民事訴訟法第七百三十四条による間接強制が考慮されるべきである。従つて控訴人に対しその商号の登記につき被控訴人又は裁判所の定める新たな商号に変更の登記手続をなすことを求める被控訴人の当審における新たな第二次請求は理由がない。

従つて、被控訴人に対する請求中、控訴人に対し「株式会社三愛」の商号の使用を禁止し、その商号を右使用禁止された商号以外の商号に変更登記手続を求め、かつ原判決主文第三項掲記の限度において控訴人の行為の差止を求める請求部分は理由があるが、その余の部分は理由がないから、右の限度でその請求を認容しその余の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴並びに附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴に基づく新たな請求も棄却し、民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事小沢文雄 判事仁分百合人 宇野栄一郎)

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